臨床検査科 2020(令和2)年度 活動の紹介
1. 診療体制
●診療方針
臨床検査科は医師2名、臨床検査技師30名、事務助手2名から構成されています。4月は3名の人事異動に加え1名の増員がありました。検体管理加算Ⅳも維持されています。2020年度も検査の精度向上のため各種外部精度管理調査(日本医師会精度管理調査、日本臨床検査技師会精度管理調査、群馬県臨床検査技師会精度管理調査、日本病理精度保証機構外部精度評価)を受審し良好な成績を得ています。臨床検査技師は検体、細菌、生理、病理など複数の検査部門を習得できるよう業務横断的配置にして個々のキャリア形成に繋げています。
2020年の大きな出来事として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行があげられ、全国の医療機関は現在もその対応に追われています。当院では、2月から保健所のSARS-CoV-2 PCR検査開始、4月から外注SARS-CoV-2 PCR検査開始、6月から院内SARS-CoV-2抗原検査を開始し、12月からは漸く院内SARS-CoV-2 PCR検査が実施できるようになりました。市中の多くの病院では、PCR検査そのものが普及しておらず、どのような装置・検査試薬が院内検査として最適なのか手探り状態でした。当院も装置の購入を試みますが、急速にPCR検査の需要の広がる中で検査装置を入手することは困難を極めました。その中でも、全自動遺伝子解析装置GENECUBE(東洋紡)を購入することができ、精度の高い検査結果を報告することができており、コロナ診療に貢献しています。現状は有症状のある職員、入院患者に対して院内PCR検査を実施していますが、今後は全症例にPCR検査が実施できる体制の構築が必要です。
さて検体検査では日々精度の高い検査データを迅速に臨床側へ報告できるよう努めています。また引き続き検体検査結果に対する臨床判断補助のためのコンサルトに応需しています。生理検査では超音波検査の件数増加に対して業務の見直しや機器・人員のやりくりで要望に応え、特に超音波検査は緊急検査にも可能な限り対応しています。細菌検査では前述したSARS-CoV-2検査の充実を始めASTの活動により血液培養等の微生物検査に対する需要も増大し(対前年比110%)的確な起因菌の検出に効果を発揮しています。さらにICT・AST等職種横断的な院内活動にも積極的に関与し、感染防止対策加算Ⅰ・感染防止対策地域連携加算Ⅰに対応しています。輸血管理室では血液資源の有効利用と医療安全の面から輸血や血漿分画製剤の安全な供給と適正な管理を推進し、輸血廃棄率は0.6%と低く、アルブミン/RBC比は2.0をFFP/RBC比は0.54を下回り、引き続き輸血管理料Ⅰと適正使用加算を維持できています。病理検査では、がんゲノム医療の発展と標的治療薬の進歩から、遺伝子変異を検出するコンパニオン診断の需要が増加し、そのための標本処理作業が増えています。
患者数の増加に伴いすべての分野において検査件数は増加の一途にあり、検査技師人員、検査機器、検査スペースともに足らない状態に陥ってきていています。いずれも将来に向けて増員、増設、拡張等を考えるべき時期に来ており、再整備が叶えられることを切望します。
病院全体の職員数増に伴い定期健康診断検査数も著増し、50歳以上の健診に対する腹部エコー検査も定着しました。研修医・看護師・若手臨床検査技師・実習生の教育研修や各科臨床研究の補助も必要であり、可能な限り協力しています。また、関連学会・研究会での発表、講演会・研修会への参加を通じての自己研鑽を図ることも必要であり積極的に行なわれています。臨床検査科は今後とも病院の重要なインフラとして、正確で迅速な検査の安全な実施に加え、採算項目の院内検査化(特殊検査の外部委託)、保険適用外検査運用の厳格化、必要経費の削減(材料費の見直し)など経営面にも考慮し、効率よく的確な臨床検査業務を通じて病院の健全な運営に関与していきたいと考えています。
●医療機器(既設)
自動尿分析装置(アークレイ)・半自動尿分析装置(アークレイ)・全自動輸血検査装置(オーソ)・輸血製剤管理システム(オーソ)・全自動血液計数装置(シスメックス)・全自動血液凝固線溶測定装置(シスメックス)2台・血液ガス分析装置(シーメンス)・自動赤沈測定機(フィンガルリンク )・生化学免疫自動分析装置(キヤノン、アボット)2台・免疫自動分析装置(ロシュ、シスメックス)各1台・グリコヘモグロビン測定装置(アークレイ)・血糖測定装置(アークレイ)・超音波診断装置(GE、フィリップス各1台・東芝3台 )・脳波計(日本光電) 2台・心電計(フクダ)4台・肺機能測定装置(チェスト) ・簡易肺機能測定装置(チェスト)・血圧脈波計(コーリン)・エルゴメータ負荷心電計(フクダ+ロード社)・オージオメータ(リオン)・骨密度測定装置(アロカ)・筋電計(日本光電)・重心動揺計(アニマ)・体成分分析装置(インボディジャパン)・呼吸代謝測定装置(ミナト医科学)・全自動同定感受性検査システム(BD)・血液培養自動分析装置(BD)・PCR(ロシュ)・全自動抗酸菌培養検査システム(BD)・ミクロトーム(ヤマト)・ クリオスタット(ライカ)・パラフィン包埋ブロック作製 装置(サクラ)・自動免疫染色装置(ロシュ)・液状化検体細胞診(HOLOGIC)・臓器標本撮影装置(杉浦研究所)・自動染色装置(サクラ・ロシュ)・超低温フリーザー(パナソニック)・開放式プッシュプル型換気装置(興研)・ミクロトーム(ヤマト)・自動包埋固定装置(ライカ)・安全キャビネット(日本エアーテック)・自動採血業務支援システム(テクノメチディカ)
●医療機器整備(更新)
1) 生化学免疫自動分析装置(東芝 c8000 → canon c16000)
2) 超音波診断装置(東芝 Aplio MX → キヤノン Aplio i800)
3) オージオメータ(リオン AA-79S → リオン AA-M1A)
4) 光学顕微鏡装置&写真撮影装置(ライカ DM3000 → Olympus BX53&DP27)
●医療機器整備(新規)
1) 超音波診断装置(キヤノン Aplio a Verifia)
2) 一酸化窒素ガス分析装置(チェスト NIOX VERO)
3) 核酸自動精製システム(プロメガ Maxwell RSC Instrument)
4) 全自動遺伝子解析装置(東洋紡GENECUBE)
5) 遺伝子解析装置(ロシュ cobas z480)
2. 診療実績
●精度管理・改善事項・検査数
① 外部精度管理
1)日本医師会精度管理(第54回):99.4点
2)日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査参加
3)群馬県臨床検査精度管理調査:群馬県臨床検査値標準化施設認定
4)日本病理精度保証機構:2019年度 外部精度評価参加
② 2020年度に実施した経営収支改善事項
・2020.5 生化学項目ビリルビンの洗浄条件の変更
・2020.6.8~SARS-CoV-2 抗原検査開始
・2020.7 PD-L1(22C3)食道癌IHC法(外注)受託開始
・2020.10 核酸自動精製システム導入(プロメガ Maxwell RSC Instrument)
・2020.11 全自動遺伝子解析装置(東洋紡GENECUBE)
・2020.12 遺伝子解析装置導入(ロシュ cobas z480)
・2020.12 院内SARS-CoV-2 PCR検査 職員・入院患者に限定して検査開始
・2020.12 基礎代謝検査の予約枠の拡大
・2021.1 HBV、HCV-PCRの外注検査化
・2021.1.13~HBV-PCR・HCV-PCRを院内から外注に変更
③ 2020年度に実施した業務改善事項
・2020.4 精密肺機能検査(DLco)の随時検査化
・2020.7 生化学項目LD、ALPの国際標準化
・2020.7 病理結果閲覧システム改修
・2020.9 検体保存用容器の変更
・2020.10 RAS遺伝子外注検査の血液検体対応化
・2020.10 超音波室6の運用開始、聴力検査室の移設、運動負荷検査室の整備
・2020.10 採血室の整備・運用開始
・2020.11 サイクルエルゴメーター導入
・2020.12 免疫項目TRAbの改良試薬への変更
・2021.2 超音波装置の更新、新規導入
④ 2020年度病理解剖件数および内訳:別表1 参照
⑤ 2020年度臨床検査件数および点数:別表2 参照
3. 臨床研究のテーマ
① 臨床各科の臨床研究の検査に関する補助・支援を積極的に行なう。
十分な精度管理を実施し、必要な検査データを提供・検体の分離・保存・搬送業務などの支援を行なう。
② 日本臨床衛生技師会、国立病院臨床検査技師会関信支部、群馬県臨床検査技師会に関連した臨床研究を行なう。
群馬県の合同輸血療法委員会、感染対策協議会、検査標準化委員会等の調査研究にも参加する。
③ 薬剤耐性菌のナショナルサーベイランス(国立感染症研究所との共同研究)
④ 内科系疾患に合併するDIC患者における凝固線溶マーカーの動態研究(日本血栓止血学会での共同研究)
⑤ COVID19蔓延期における感染症指定病院勤務職員のSARS-COV-2抗体の保有状況に関する調査研究
4. 研修教育方針
① 検査技師養成学校からの臨床実習生を受け入れて教育・技術指導を行なう。
② 臨床研修医に対する必須技能として超音波検査技術指導および血液型クロスマッチ検査等の手技指導を行なう。
③ 臨床研修医に対するCPCでの病理所見示説指導を行なう。
④ 各種学会・研究会・講習会への積極的な参加による研修・研鑽をはかる(別掲論文・学会発表参照)。
⑤ 群馬県臨床検査技師会理事、輸血研究班幹事、群馬県標準化委員会基幹施設として技師の資質向上を目指す。
5. 今後の展望
① 臨床各科の要望に対して正確で迅速な検査結果を確実に提供する努力を継続する。
② 医療制度・病院経営・教育研修機能をふまえた効率的な病院のインフラとしての機能を果たしていく。
③ 新棟を建設後の旧棟の再整備において、手狭になった検査科スペースの拡充と利便性の向上を図っていく。
④ 以上の各項目を達成するためさらに人的資源の確保・検査機器整備の更新をはかる。
⑤ 将来的なISO15189の認定を意識して標準操作手順などの書類の整備を進める。
病理診断科 2020(令和2)年度 活動の紹介
1. 診療体制
病理診断科は、日本では2008年に厚生労働者により広告可能な標榜科名として認可され、当院では2011年に研究検査科を改称・改編して臨床検査科と病理診断科の二部門体制となったのを機に、病理診断科が診療科の一つとして認知されるようになりました。
2002年4月から小川晃医師が1人常勤病理医として病理診断業務を担っていましたが、2013年4月に田中優子医師、2014年4月に宮永朋実医師が加わり、それ以降は3人常勤病理医体制となっています。群馬大学大学院医学系研究科病態病理学とその関連病院の諸先生方、および亀田メディカルセンター乳腺科・病理の黒住昌史医師の診療応援をいただいております。
病理診断科の主な業務は、病理組織診断、細胞診、剖検です。
病理組織診断は患者の治療方針の決定に寄与する重要な業務で、各診療科医師が患者の了解を得て病変部から組織を切除し、病理検査室に提出し、臨床検査科の臨床検査技師が標本を作製し、当科の医師が診断します。複数の常勤の病理専門医が検鏡し、診断を行う事が可能な体制が整備されています。
細胞診は、各診療科医師が患者の了解を得て病変部から細胞を採取し、病理検査室に提出し、臨床検査科の臨床検査技師・細胞検査士の標本作製・スクリーニングの後、当科の常勤の医師が診断する体制となっています。消化器科のEUS-FNAの際、検査中に細胞診標本を作製し、細胞が十分な量採取できているかどうかの報告を行っています(予約制です)。
原則として勤務時間内には1名以上の病理専門医が常駐しているため、予定外の術中迅速診断でも対応が可能となっています。
剖検は、各診療科医師がご遺族の承諾を頂き、死因の究明や病気の広がり、治療効果の判定を目的として、主治医等の立ち合いのもと、当科の医師と臨床検査科の臨床検査技師で行います。剖検の結果は、全例、病院全体を対象とした臨床病理検討会(clinicopathological conference; CPC)を開催し、今後の医療の発展のために役立てています。
キャンサーボード、乳腺カンファレンスなどへ参加しています。
精度管理では、日本病理精度保証機構の外部精度評価に参加し、基準を満たしていていることを認証されています。
病理診断管理加算Ⅱの算定要件を満たす診療体制を構築しています。
日本病理学会認定施設、日本臨床細胞学会認定施設です。
●診療方針
・病理診断を可及的速やかに報告して、主治医に伝えることにより、今後の治療を円滑にすすめられるようにします。治療方針に少しでも寄与できる可能性がある場合は、仮報告を使用するなどして、途中経過を報告します。
・直接患者と対面することはありませんが、病理診断という専門性の高い分野に特化した診療科の一員として、主治医をはじめとした病院スタッフを通じて、お役に立てるように日々努めます。
・後世に良質な検体やデータを残すために、情報の入力方式や検体およびデータの管理体制の整備を行います。診療情報管理士と連携し、がん登録およびNCD登録業務への協力を行います。
2. 診療実績
この数年、病理組織診断は5000件台後半、細胞診は6000件台、剖検は10件台で推移しています。2020年3月に別館が開設し、病床数が485症(+34床)、手術室11室(+5室)となりましたが、COVID-19の影響が大きく、増床・増室の効果は相殺され、病理組織診断、細胞診ともに前年比約5%減となっています。剖検はCOVID-19の対策による解剖停止期間があった影響が大きく、9件と、目標とする数を割る結果となっています。
3. 研究教育方針
・臨床研修医に対し、剖検の執刀、マクロ検討、ミクロ検討、病理解剖報告書作成、CPCスライド作成、CPCでの病理所見示説指導を行います。
・臨床研修医や医学生の希望者を受け入れ、将来的に進む科の特性にあわせた病理診断業務の研修指導を行います。
・各診療科の医師(特に若手医師)に対し、病理診断に関連した疑問についての解説を行うことにより、病理診断結果を適切に臨床応用できる医師の養成に努めます。
4.今後の展望
病気の概念や分類方法は時代とともに変化しており、特に腫瘍に関する領域では分類の細分化が進んでいます。当科では、最新の知識の習得に励み、新たな診断技術や疾患概念を積極的に導入し、日常の病理診断に反映させていきます。
がんの遺伝子異常の有無を検索し、その情報に基づいて治療を行う医療が行われています。その中で、病理組織検体を用いて行われるものがあるため、病理部門として検体を適切に取り扱う体制を構築し、正確に遺伝子診断が行われるように努めます。