2021(令和3)年度 活動の紹介
1. 診療体制
●診療方針
呼吸器科では肺癌をはじめとする腫瘍性疾患(悪性中皮腫、縦隔腫瘍を含む)、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、多種多様な呼吸器感染症(肺炎、気管支炎、細気管支炎、胸膜炎、肺結核など)、特発性肺線維症をはじめとする間質性肺疾患(特発性間質性肺炎、膠原病肺、薬剤性間質性肺炎など)、各種胸膜炎、肺血栓塞栓症などを主な対象疾患としています。
肺癌は現在本邦において悪性腫瘍の死因第1位であり、肺癌の予防と治療は21世紀のわが国の医療が抱える重要なテーマの1つです。肺癌患者の治療は十分なインフォームド・コンセントを得た上で、手術療法、化学療法、放射線療法のうち、その患者に適切な治療法を選択し施行しています。呼吸器内科としては化学療法単独、放射線療法単独、ならびに化学療法・放射線療法併用療法を行っています。近年では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の臨床応用により、治療法が大きく変化し、肺癌の治療成績は飛躍的に向上してきています。呼吸器系キャンサーボード(呼吸器内科・呼吸器外科・放射線治療科の合同カンファランス)を毎週1回開催し、最新の肺癌診療ガイドラインを参考にして適切な効果的な治療を目指しています。また、緩和医療にも力を注いでいます。
高齢化が一層進む中、慢性閉塞性肺疾患の慢性呼吸不全患者は増加しています。慢性呼吸不全患者の急性増悪症例も多く、救命センターを中心に呼吸器系救急医療を精力的に行っています。
肺炎を代表とする呼吸器感染症は日常診療で遭遇することの多い呼吸器疾患で、特に高齢者の死亡率は高く重症例を含め適切な診断と治療を行っています。
間質性肺疾患としては、特発性間質性肺炎をはじめ、関節リウマチなどの自己免疫性疾患に関連する間質性肺炎も数多く診療しています。特に各種間質性肺炎の重症呼吸不全患者は他院からの転院要請も多く積極的に応じています。
2. 診療実績
呼吸器科入院患者数は、一日平均で、2019年度は34.0人、2020年度は37.9人、2021年度は47.0人でした。平均在院日数は、2019年度は15.3日、2020年度は15.0日、2021年度は16.6日でした。入院患者の主な疾患は、肺癌が半数以上と年々割合が増えており、慢性閉塞性肺疾患・気管支喘息などの疾患は減少しています。肺癌入院患者に対しては、分子標的治療薬や、免疫チェックポイント阻害薬を導入する症例が増えており、今後もこの傾向は続くものと思われます。また、放射線治療科の協力により肺癌に対して放射線治療も積極的に行われています。2021年度の呼吸器科の紹介患者数は859人でした。
年間入院患者数は891人、平均入院患者数は34人で、疾患別では肺癌が最も多く52%、次いで肺炎(25%)、間質性肺疾患(8%)、COPD/気管支喘息(4%)でした。
2021年度の新規肺癌登録者数は265名と増加し、化学療法実施患者数も年間95人に増えています。
特に免疫チェックポイント阻害薬投与患者数は年々増え、2018年度は18名、2019年度は34名と約2倍になりました。
気管支鏡検査は、2011年より日本呼吸器内視鏡学会認定施設に認定され、2012年度には超音波気管支鏡が導入され、肺癌患者の増加に従い超音波気管支鏡検査対象患者数が増加しています。
クリニカルパスについては、静脈麻酔を用いた気管支鏡検査パス、CTガイド下生検パス、超音波気管支鏡検査パスに加え、肺癌化学療法のカルセド療法パス、カルボプラチン+アリムタ療法パス、タグリッソ療法パスが加えられました。
2020年以降は、救急科、総合診療科・内科とともに新型コロナウイルス感染症患者の入院治療も行っており、新型コロナウイルス感染症に対するパスも導入されました。
3. 臨床研究テーマ
1)肺癌化学療法
・間質性肺炎合併肺癌におけるカルボプラチン+アブラキサン療法の有用性の検討
・ペメトレキセドによる長期維持療法の検討
・EGFR-TKI治療中に病勢進行をきたした非小細胞肺癌患者における遺伝子変異検査及び治療方針決定に関する
実態調査への参加
・EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者再発時のT790M 耐性遺伝子陽性例の臨床的検討
・EGFRT790M 変異陽性非小細胞肺癌におけるオシメルチニブの効果予測因子に関する前向き観察研究
2)薬剤性肺障害の臨床的検討
・抗癌剤による薬剤性肺障害
・分子標的治療薬による薬剤性肺障害
3)関節リウマチ関連
・関節リウマチ患者治療中に起こる呼吸器合併症の臨床的検討
・関節リウマチに合併する呼吸器病変の検討
・抗リウマチ薬使用中に発症するニューモシスチス肺炎の臨床的検討
・メソトレキセートなど抗リウマチ薬による薬剤性間質性肺炎の検討
4) 各種間質性肺炎の HRCT 所見の検討
・上葉優位型肺線維症の臨床的検討
・DAD の臨床病理学的検討
・放射線肺臓炎の臨床的検討
5)肺癌関連
・トルソー症候群を中心とする肺癌合併凝固異常症の臨床的検討
6)乳癌術後胸部接線照射による照射野外に発生する器質化肺炎の臨床的検討
7)呼吸器感染症関連
・レジオネラ肺炎の臨床的検討、肺炎球菌性肺炎との比較検討
・ニューモシスチス肺炎の臨床的検討
・ステロイド・免疫抑制薬治療中におこるニューモシスチス肺炎の予防に関する研究
・ステロイド・免疫抑制薬治療中におこる呼吸器感染症の臨床的検討
-PCP,クリプトコッカス症,細菌性肺炎,結核など-
・肺癌治療経過中に発症した呼吸器感染症の検討
4. 研修教育方針
2022年度診療方針と研修教育方針
スタッフは中川純一部長、増渕裕朗医師、内田恵医師に加え、細野達也医長、田口浩平医師、若松郁生医師の計6人体制に増員されました。
外来は一日平均40人、入院は一日平均40人、平均在院日数は14日を計画していますが、少ない人数で新患を毎日受け入れ救急・入院患者に対応するために、群馬大学呼吸器アレルギー内科に依頼し非常勤医師を派遣していただいています。
外来担当は月曜:中川・若松,火曜:内田・細野,水曜:田口・増渕,木曜:中川・増渕,金曜:内田・細野が担当しています。新患数は紹介患者を含め年々増加してきており、今後益々増加することが予想されます。病診連携を深めて積極的に逆紹介も増やしていきます。
毎週火曜日に北5階病棟で呼吸器カンファレンスを行い、毎週木曜日には呼吸器系キャンサーボードを開催しています。
今後は研修医教育には一段と力を注ぎ、呼吸器内科医を増やし、当院をさらに魅力のある病院にするべく努力していきたいと考えています。
5. 今後の展望
群馬大学附属病院をはじめとする他の専門病院との連携を深め、県内の呼吸器科医の育成に努め、呼吸器疾患診療のさらなる充実を目指します。