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2019(令和元)年度 活動の紹介

1. 診療体制

● 診療方針

 当院精神科は、2007年に6代目の常勤医師として赴任して以来、12年になります。昭和46年の開設当初は、総合病院にある精神科外来として、精神科診療所=メンタルクリニック的色彩が強かった様子です。時代は流れ、当院も高崎市を中心とする西毛地区のみならず、隣接する他県、特に医療過疎に悩む北部埼玉からも患者受診が多く見られます。
 西毛地区で唯一の救急救命センターを有し、地域がん拠点病院としての機能を果たす当院においては、自殺企図への介入、がん患者のメンタルケアを中心に総合病院におけるいわゆるgeneral hospital psychiatryの実践の場となっています。毎年報道されるように、我が国の自殺死亡数が高止まりしている中で、自殺未遂者支援を中心に、医療の支援を継続していますが、特に救急医療から、精神科救急医療への間髪を入れぬ連携が必要なのは、指摘されて久しく、そのため、総合病院に精神科病棟を置く(有床化)事が欠かせないのですが、残念ながら、当院の有床化の見込みはありません。
 また、がん患者のメンタルヘルスケアにおいて重要なのは、まずせん妄への介入になります。最近、当院でもせん妄ハイリスク患者ケア加算を導入すると同時に、せん妄対策チームによるハイリスク評価と、防止対策が実施され、せん妄の発生時の対応のみならずせん妄防止へ向けた体制が整備されつつあり、当科でも期待と大きな関心を持って推移を見守っています。更にがん患者のメンタルケアにおいて最大の課題は自殺防止です。院内発生の防止のためには、せん妄対策と同様、チームでの対応が必要です。また、発生時のケアをどこで行うかについて、検討が必要です。これについても、有床化の目処はないですが、今後に期待しています。
 近年、受診が増えて問題になっているのは成人の発達障害(自閉症スペクトラム障害など)です。これは、治療というより社会的自律の促進が欠かせないため、就労支援に関係機関と連携していくことが必要です。就労支援のプログラムを有する包括支援センターや作業所、ディケアを利用しつつ支援を継続しています。また、発達障害・知的障害者の妊娠・出産の問題もあります。特に出産後の育児能力に大きな問題をかかえるケースが多く、高崎市こども家庭課・児童相談所との連携が重要です。現在も、出産後の退院時に多種職による支援会議を開いて支援を継続しているケースがあります。
 当院で薬物療法を実施する際に、適正使用管理が義務づけられている薬剤がいくつかあります。発達障害の中でも注意欠陥多動性障害は、コンサータあるいはビバンカプセルの処方を行う必要がある症例もあります。また、睡眠障害のナルコレプシー患者に対してリタリン、モディオダールを処方しています。これらの薬剤を処方するためには、それぞれの適正使用管理システムに登録を行わなければなりません。当科では、すべて登録済みであり、当該患者に対して問題なく薬物処方を実施しています。
 当院は、国立病院機構の臨床治験を実施する病院として、各科での臨床治験が盛んですが、精神科でも、県内総合病院としては唯一臨床治験を長年実践してきた実績があります。精神科診療における薬物療法の重要性が認識されて久しく、国が推進する向精神薬新薬の治験の一翼を担うことは、精神科薬物療法の進歩を計るうえで重要な任務であると考え実践しています。臨床治験の経験は、当院の方針である臨床研究の促進にも応用されています。がん患者の心理療法(コラージュ療法)、せん妄の合理的薬物療法、発達障害患者の就労支援に重要な因子の解明などいくつかのテーマに沿った臨床研究が進行中であり、その成果の一部は既に学会で報告しています。精神科救急、特に自殺未遂者の実態調査を群馬大学精神科と共同で実施し、国内雑誌に掲載が予定されています。

● 医療設備

 光トポグラフィー装置(当科外来)
 脳波(生理検査室)
 CT、MRI、SPECT(放射線診断部)

 

2. 診療実績

● 症例数

R02-seishin2

 

3. 臨床研究のテーマ

●自殺未遂者の実態調査
 ※「総合病院精神医学」に本年度掲載予定

●発達障害患者の就労可能性に関する因子の探索研究
●バルプロ酸ナトリウム服用患者にみられる高アンモニア血症に対する治療に関する研究
●がん患者のコラージュ療法
●光トポグラフィーによる精神疾患患者の脳機能評価
※日本精神神経学会、日本総合病院精神医学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本サイコオンコロジー学会、東京精神医学会、世界生物学的精神医学会などで、発表。

●大うつ病性障害に対するブレクスピプラゾールの有効性・安全性に関する臨床治験

 

4. 研修教育方針

・日本精神神経学会精神科専門医制度における研修施設です。(施設番号210024)

・目的
 総合病院においてメンタルヘルスケアを必要とする患者に対して標準的な専門治療を提供できるための知識や技能を習得します。

●主たる研修目標

<1>総合病院精神科医を特徴付ける能力

  1. 医療及び地域連携について理解し、実践できる。
  2. 他職種との連携を行いながら、チーム医療の一因として役割を果たすことが出来る。
  3. 身体疾患およびその治療を考慮しながら、適切な精神医学的診断が下せる。
  4. 身体疾患およびその治療を考慮しながら、適切な精神科的治療マネージメントが実行できる。

<2>総合病院精神科医に必要な医学的知識と技術

  1. 身体合併症を有する精神疾患について適切なマネージメントが行える。
  2. 各診療科からのコンサルテーションへ適切にマネージメントが行える。
  3. 自殺企図患者に対して身体科医と連携して適切にマネージメントが行える。
  4. 緩和ケアについて理解し、緩和ケアチームの一員として機能できる。

<3>すべての精神科医に共通して必要な能力

  1. 必要な関連法規を理解し運用できる。
  2. 患者および医療スタッフの安全を守り、危機管理に対する態度を身につける。
  3. 適切な精神科的面接、診察、検査結果に基づき、精神医学的診断が下せる。
  4. 適切な精神科的治療法を選択すると共に、経過観察によって、診断および治療を適切に修正改善することができる。

<4>

  1. 医学研究について理解し、リサーチマインドをもって診療を行える。
  2. 医学教育について理解し、医学生や初期研修医に対して教育的役割を果たすべく研鑽を積むことが出来る。

 

5. 今後の展望

 当科は、西毛地区における中核的総合病院にある精神科として、幅広い地域の精神医療的ニーズに対応していくべく努力してきました。本年度は、コロナウィルスの流行という全世界的規模の惨禍に見舞われ、本稿を執筆中の2020年8月現在、なお予断を許さぬ状況のただ中にあります。そうした中で、精神医療の果たすべき役割を改めて再考し、これまでの既成概念にとらわれない精神医療を模索しつつ実践する決意を新たにしています。

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