2021(令和3)年度 活動の紹介
1. 診療体制
●診療方針
2012年から外科に所属し「緩和医療科」として緩和医療に携わってきましたが、2020年4月から独立して、新たな診療科「疼痛緩和内科」を立ち上げました。がんに患うと、心の痛み(悩み、つらさ)や体の痛みのほか、今後の見通し・過ごし方・家族への思いなど様々な気がかりが表出されます。このようなつらさ(全人的苦痛)を、家族など誰かに相談できる患者もいれば、だれにも相談できず一人で悩まれている患者もいます。時には、患者と家族のそれぞれの思いの違いで、お互い悩まれていることもあります。人は、自分の思いを聴いてもらうと心が落ち着いてくると言われています。生きる希望を失わないためにも、患者の言葉に耳を傾け、その対話のなかから、問題点や困っていることは何か、解決できることであるか、解決可能であればどのようにすれば解決できるかを一緒に考えて悩んでいきます。
一方で、時には解決できない悩み(いわゆる、スピリチュアル・ペイン)をぶつけてくることもあります。そのようなときは、正直、私もひるみます。しかし、それは“心の叫び”と捉え、うやむやにせず、しっかり応対することを心がけています。患者・家族・医療従事者、すべてが同じ方向を向いて医療にあたられるようサポートしていきます。
入院では、チーム医療として関わっています。患者からの介入希望で、多職種で構成された緩和ケアチームとして病室にうかがい、サポートしています。介入患者には「緩和ケア診療加算」を算定しています。
外来では基本的に、病気に対する診療科(肺がんであれば呼吸器内科、胃がんであれば消化器内科など)からの紹介となります。登録医等、院外の先生方からの紹介は、まず病気に対する診療科を紹介受診し、そして、その診療科から「疼痛緩和内科」を院内紹介していただくシステムです。外来は、月曜日から金曜日までの午後、一人一時間枠(カルテ記載時間を除く)です。患者の全人的苦痛のみならず、家族へも目を向けていますので、場合によっては、それ以上の時間をかけて診察しています。症例数は多くないですが、がん患者のほか、非がん患者も診ています。「外来緩和ケア管理料(含、がん性疼痛緩和指導管理料)」や「がん患者指導管理料」などの算定をしています。
2. 診療実績
●入院症例数
入院中依頼患者は137例(初回依頼患者は75.2%)で、月平均11例、一日の回診患者数は平均7例でした。今年度は、12診療科から依頼がありました。内訳は、呼吸器内科53例(39%)、消化器内科30例(22%)、産婦人科21例(15%)のほか、総合診療科、外科、泌尿器科、乳腺・内分泌外科、呼吸器外科、心臓血管内科、整形外科、脳神経外科、歯科口腔外科から依頼がありました。がん性疼痛以外の疼痛や非がん患者への依頼もありました。依頼理由は、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛への対応と様々でした。2021年度中の転帰は、退院55例(40%)、死亡退院35例(26%)、転院25例(18%)、在宅医療へ移行は15例(11%)、中止7例(5%)でした。平均介入日数は、死亡退院は24日、退院・転院・在宅医療へ移行は19日でした。外来の延べ患者数は、106例で月平均9例でした。
●外来症例数
2021年度(令和3年度)は外来延べ人数106例(月平均9例)、平均外来時間70分(カルテ記載時間を除く)でした。新患16例中1例が院外からの紹介で、初診の平均外来時間102分(カルテ記載時間を除く)でした。9診療科から紹介があり、内訳(延べ件数)は、消化器内科31件、総合診療科・内科21件、乳腺・内分泌外科21件、呼吸器内科9件、産婦人科7件、呼吸器外科7件、外科5件、泌尿器科4件、心臓血管内科1件でした。
3. 臨床研究テーマ
貴重な症例や蓄積データーなどを、日本緩和医療学会学術大会、日本サイコオンコロジー学会総会、日本緩和医療学会関東甲信越支部学術大会、群馬緩和医療研究会、などで発表しています。
4. 研修教育方針
2006年がん対策基本法の制定をうけ、2007年第1期がん対策推進基本計画で緩和ケアについての基本的な知識の習得が目標として掲げられました。2008年厚生労働省委託事業として「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会」が始まりました。その後、受講対象者が、医師等に対する研修会、そして、がん等の診療に携わるすべての医療従事者へと変わり、現在は「がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会(緩和ケア研修会)」へと改訂されました。そのほかの研修会として、毎年、緩和ケアフォローアップ研修会、悪い知らせを伝えるコミュニケーション技術研修会(SHARE-CST)など、研修医・医師・歯科医をはじめとする医療従事者を対象とした研修会を開催しています。2021年度(令和3年度)の緩和ケア研修会は院内の医療従事者を対象に開催し、緩和ケアフォローアップ研修会は群馬県医師会主催のもとZOOMで開催しましたが、新型コロナウィルス感染症の影響で、悪い知らせを伝えるコミュニケーション技術研修会(SHARE-CST)の開催は中止となりました。
5. 今後の展望
群馬県の緩和医療において
- 学会、研究会:2021年度(令和3年度)の群馬緩和医療研究会は新型コロナウィルス感染症の影響で中止でしたが、研究会のさらなる充実を図ります。また、引き続き、群馬県として日本緩和医療学会関東甲信越支部学術大会開催の検討をしていきます。
- 各研修会:こちらも新型コロナウィルス感染症の影響もありましたが、制限(院内のみの開催やZOOM開催など)を設けて開催しました。引き続き、緩和ケア研修会や緩和ケアフォローアップ研修会のほか、SHARE-CSTの継続開催をしていきます。
- 啓蒙活動:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)やリビング・ウィルの普及活動をします。特に、苦しむ患者と家族の苦しみを和らげるためになるような活動を図ります。