心臓血管外科について
心臓血管外科は、心臓や血管(動脈や静脈)の病気に対して、主に手術を行うことで治療をする診療科です。心臓血管外科というと何が思い浮かぶでしょうか。心臓の手術はなんとなく怖い、とか、血管の手術で動脈硬化が治るの?とかのイメージがあるかもしれません。現在行われている心臓血管手術は日進月歩の技術、新しい知見に支えられて、以前と比べてはるかに手術成績が向上し、体への負担も軽減しています。
心臓や血管の病気では、一刻も早く診断、治療が必要な状態のこともあります。当センターでは心臓血管外科医が勤務しており、急患に対して迅速に対応できるようになっています。また院内各科と密接に協力できる体制になっています。
心臓血管外科で治療対象となる病気には、次のようなものがあります。
心臓疾患
心臓弁膜症、虚血性心疾患、成人先天性心疾患、心臓腫瘍、その他
血管疾患
胸部大動脈瘤、急性大動脈解離、腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、静脈疾患、その他
治療を行っている代表的な疾患について説明します。
心臓疾患
心臓の働きが低下すると、少し動くと息が苦しくなったり体がむくんだりします。治療には薬物療法、カテーテル治療,手術療法があります。まずは正確な診断をした上で治療することが大切です。
<心臓弁膜症>
心臓は全身や肺に向かって血液を送り出す、「血液ポンプ」の働きをしています。血液を送り出すときに効率よく流れるように、心臓には逆流防止弁が4つあります。この逆流防止弁が狭くなったり(狭窄症)、逆流したり(閉鎖不全症)すると心臓に負担がかかります。これが心臓弁膜症です。心臓弁膜症は息切れなどの心不全症状や不整脈で発症することが多い病気です。
心臓にある4つの弁のうち、弁膜症になりやすいのは大動脈弁と僧帽弁です。それぞれが狭窄症や閉鎖不全症を起こすことがあります。以前はリウマチ熱による弁膜症が多かったですが、現在は加齢による変性が主な原因とされる大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症が大部分を占めます。
手術方法は、人工心肺を用いて自分の弁を残して修復する手術(弁形成術)や自分の弁を人工弁に取り換える手術(人工弁置換術)を行っています。
人工弁の種類には機械弁と生体弁があります。それぞれ長所と短所があるため、患者さんの状態に合わせて選択しています。
また、不整脈、特に心房細動に対しては、弁の手術と同時に外科的な治療を行います。
なお、人工弁置換術をうけた患者さんは身体障害者1級に該当します。申請する際に必要な書類(身体障害者意見書)を作成いたします。
<虚血性心疾患>
心臓は大部分が筋肉でできており、体中に血液を送り届けるポンプの働きをしています。心臓の筋肉が働き続けるために、冠動脈(冠状動脈)が心臓の筋肉に血液(=酸素と栄養)を供給し続けます。
※安静にしているときは心臓が必要な血液量は少なくてすみます。
※運動したときは心臓が必要な血液量が増加します。
たくさんの酸素を消費する状態です。
冠動脈が狭くなって心臓の筋肉に必要な血液量が不足すると胸痛などの症状が出現し(狭心症)、悪化すると体中に必要な血液を送り届けることができない状態(虚血性心筋症、心不全)になります。冠動脈が閉塞したときは心臓の筋肉の一部が壊死になってしまう(心筋梗塞)ことがあります。急性心筋梗塞は生命にかかわる重篤な病気です。
動脈硬化のために血管の内側に粥腫という塊ができたり石灰が沈着したりして、冠動脈が狭くなることが血流の低下の原因として多いです。
アメリカでは以前より死因の第一位にあります。その危険因子は、年齢、高血圧、肥満、高脂血症、喫煙、糖尿病などで、日本においても食生活の欧米化に伴って年々増加傾向にあります。
冠動脈造影
治療としては、心臓カテーテルを用いた経皮的冠動脈形成術(PCI)が心臓血管内科医によって積極的に行われていますが、冠動脈の狭窄・閉塞の部位や数によっては手術が必要となります。冠動脈バイパス手術は、狭窄や閉塞した部位より末梢の冠動脈に自己の動脈または静脈を吻合して、血行を再建する方法です。人工心肺を用いて心臓を止める手術方法と、人工心肺を用いないで心拍動下で行う手術(心拍動下冠動脈バイパス術)も行っています。
複数箇所のバイパスを行います。
血管疾患
心臓が送り出した血液が流れる血管(=動脈)は年齢とともに動脈硬化が進み、太くなったり(動脈瘤)、狭くなったり(閉塞性動脈硬化症)します。
<胸部大動脈瘤>
心臓から全身に血液を届ける血管を動脈といい、特に心臓の出口から始まる太い動脈を「大動脈」といいます。胸部大動脈瘤は、大動脈の胸の部分にある血管の一部が瘤状に膨らむ病気です。動脈硬化が原因の真性動脈瘤と動脈の壁が縦方向に裂けて生じる解離性大動脈瘤の2種類があります。真性動脈瘤は慢性の病気で徐々に大きくなってきますが、ある一定の大きさを超えると破裂して救命が困難となります。そのため破裂前の手術が必要です。日常からの血圧管理が重要です。
図のように血管が太くなっている部分が動脈瘤です
治療には人工心肺を用いて大動脈瘤の部分を人工血管に置換する方法とステントグラフト内挿術とを組み合わせて行います。
<腹部大動脈瘤>
腹部大動脈瘤は、大動脈の腹の部分にある血管の一部が瘤状に膨らむ病気です。通常は無症状ですが胸部大動脈瘤と同様にある一定の大きさを超えると破裂する場合があります。破裂前に手術した場合の死亡率は1%以下ですが、破裂後の手術の死亡率は50%前後ときわめて不良です。そのため、破裂前の手術が必須です。
図のように血管が太くなっている部分が動脈瘤です
治療には大動脈瘤の部分を人工血管に置換する方法と、ステントグラフト内挿術があります。
当院では、適応のある患者さんに対し低侵襲血管内治療であるステントグラフト内挿術を積極的に行っています。
<急性大動脈解離>
大動脈壁の一部が裂けてしまい、それが拡がった状態です。
大動脈が裂けている範囲で大きく2種類に分けられます。急性大動脈解離は突然の胸部痛や背部痛で発症しますが、心臓や脳など重要な臓器に障害を起こすことがあるため緊急手術が必要な場合があります。
一般的にStanford A型は緊急手術、Stanford B型は安静と降圧療法が行われます。Stanford B型であっても消化管や下肢などの臓器の血流障害や破裂などのときは緊急手術が必要です。
<末梢血管疾患>
閉塞性動脈硬化症は動脈硬化によって主に下肢の動脈が狭窄・閉塞する病気です。症状は歩行時の足の疲れや安静時の足の痛みです。さらに悪化すると足が壊死(腐ってしまうこと)することもあります。重症度分類のうちFontaine分類を示します。より詳しい分類法もあります。
・Ⅰ度:無症状
症状がないか、足が冷たい感じやしびれ感が現れます。
・Ⅱ度:間歇性跛行
ある程度の距離を歩くと足が痛くなって歩けなくなり、しばらく休むと痛みが良くなって歩けるようになります。
・Ⅲ度:安静時疼痛
静かにしていても足が冷たく、痛みます。
・Ⅳ度:潰瘍・壊死
最も重症で、足のキズが潰瘍になって治らなかったり、足が壊死して切断が必要になることもあります。
血流の改善のため、薬物療法、カテーテル治療、手術を併用して行います。手術では、人工血管や自分の静脈を用いて血行を再建します。
一方静脈瘤は心臓に戻る血液が逆流し、足の静脈がふくらんで血行障害を起こす病気です。硬化療法や静脈瘤抜去、切除術を行っています。